コミュニケーション能力をブレイクダウンする
前職で人事部の採用担当者などとこんな会話をしたことがあります。
学生に求めるのはやっぱりコミュニケーション能力ですよね
なるほど。でも、コミュニケーション能力って、深掘りすると具体的にはどういう能力ですかね?
みたいな感じで一歩突っ込んで議論をふっかけてみると、そりゃアレだろ…みたいなモヤっとした空気になりました。実は、自分も含めて雰囲気で「コミュニケーション能力」という言葉を使ってたりします。
私はそもそも論として「コミュニケーション能力」という言葉が、あまりに多くの事柄を包含し過ぎていると感じてます。「コミュニケーション能力が大事」というのは分かるけど、中身をもっとブレイクダウンして考えないと、議論はいつまで立っても空中戦です。
そこで今回の記事では「コミュニケーション能力」の要素について語ってみようと思います。
自分は、仕事がIT関係であるということもあり、人間とコンピュータを関連付けて物事を考えるのが好きです。そもそもコンピュータの仕組みは、人間世界を単純化・モデル化して作られています。逆に、コンピュータの仕組みを参考にして人間社会を分析するのもけっこう有用です。
コミュニケーション能力について考えるにあっては、ネットワーク通信の機能が非常に参考になります。今回は、コアなネットワーク技術者しかお目にかかることのない、ネットワーク通信の構造を参考にしながらコミュニケーション能力について語ってみます。
OSI参照モデルの7階層
コンピュータ同士が通信しあうにあたっては、非常にさまざまな手順を踏む必要があり、多くの機能が複雑に入り組んでいます。コンピュータなどの通信機能は「OSI参照モデル」と呼ばれるモデルを用いて、この複雑に折り重なった機能群を、7段階に階層化して分かりやすく説明されています。
コンピュータ同士が通信をする際には、各階層で相手と整合性を合わせながらコミュニケーションを行います。第1層の通信が確立したら、その上で第2層の通信を行い・・・と順繰りに通信を行い、第7層まで通信が確立できて、ようやくコンピューター同士で通信を行うことが可能となります。…細かい話はどうでも良いです。7階層のレイヤーで通信してるんだなと言うことだけ覚えておいてください。
コミュニケーション能力を7階層で理解する
第1層 物理層
物理的に相手と接する部分の機能です。人間のコミュニケーションで言えば、外見や印象にあたります。
- 外見 :身だしなみに清潔感がある。寝癖などついてない。
- 服装 :TPOに適した服装をしている。靴がしっかり磨いてある。
- 表情 :笑顔でコミュニケーションを行なっている。
- 声色 :聞き取りやすいトーンで話している。声に自信がみなぎっている。
正直、ここで通信エラーが起きると致命的です。生理的に受け付けないというやつです。いくら上位層で素晴らしいコミュニケーションをしようとしても、話は聞いてもらえません。
ハロー効果という現象があります。ある人を判断するときに、目立ちやすい特徴によって、その他の判断内容までもが引きずられてしまうというものです。勝負はファーストコンタクトであらかた決まってしまいます。
第2層 データリンク層
近隣の端末との基本的な通信機能です。人間のコミュニケーションでは、狭義のコミュニケーション能力にあたります。
- 語彙: 豊富なボキャブラリーを使って会話ができる。
- 文法: 正しい文法を使って話している。
- 順番: 話すタイミングがぶつかりそうな時にも、うまく衝突を回避できる。
- 話を繋ぐ: 適切に話題を繋いで、コミュニケーションを保つことができる。
外国語なども第2層の機能であるため、やはり通信エラーがあると、上位層のコミュニケーションが不通になってしまいます。
第3層 ネットワーク層
通信経路を選択する機能です。人間のコミュニケーションに当ててみると
- 通信媒体: 対面、電話、メール、チャットなど、コミュニケーションの目的に合った通信媒体を選択できる。
- 影響範囲: メッセージが、どのような影響を持って広がるか、意識して発信できる。
- リーチ : 意図した相手に対してメッセージを届けることができる。
といったところです。
目の前の人と話をするだけがコミュニケーション能力ではありません。コミュニケーション能力とは、もっと幅広いものです。
あなたが営業マンで、せっかくお客さんと商談がスムーズに運んでいたのに、そのお客さんの上司に覆されたことはありませんか?本当のコミュニケーション相手が、目の前に座っている人であるとは限りません。決裁権者は、目の前の人の向こう側にいる事も多いです。そのことを意識して、通信媒体と影響範囲を意識して、ターゲットにリーチしていくのが、ネットワーク層の機能です。
第4層 トランスポート層
トランスポート層は通信品質を向上させる機能です。通信というのはエラーが付きものなので、相手と一緒になって確認をしながら、相互理解に齟齬が無いことを確かめます。
到達確認:自分の言っていることがしっかり伝わっているかを確認できる
「ここまでのご説明で不明点ありますか?」
「分かりづらかったら言ってください」
再送要求:理解できなかったことを相手に伝えて、再度メッセージを送信してもらう
「~という理解で合ってますか?」
「すみません、自分の頭が悪いようで理解がついていけませんでした」
「今の件、よく分からなかったのでもう一度説明して頂いていいですか?」
分かりました! 大丈夫です! できます! やります! と言っておきながら、実際にはまったく理解していなくて勝手に変な方角に突き進んでしまう人は、このトランスポート層の機能が弱いのでしょう。
第5層 セッション層
セッション層の機能は、通信の適時性の担保です。人間のコミュニケーションというのはタイムリー性が命。タイミングが良いと「出来るやつ」、タイミングを外すと「要領が悪いやつ」という評価になってしまいます。
- タイミング:適切なタイミングを図ってコミュニケーションが取れる。素早い反応でレスポンスできる。
- 連続性 :前回のコミュニケーションからの経緯を踏まえて、コミュニケーションを再開できる。
- フォローアップ:適切なポイントで相手にリマインドすることができる。
全般的に、メールでもメッセージでも電話でも、レスポンス早い人は「お、仕事できる人だ」という印象があります。自己主張が強くて、場面を構わずに自分の意見ばかり言ってると、「うるさいやつ」と思われます。意見を言うのは良い事なんですが、言うタイミングは選びましょう。
「いつもギャーギャー言ってるやつ」と「言うべき時に言う人」では評価に雲泥の差がありあます。自分の同僚だったWさんは、セッション層の機能が弱くてですね…、打ち合わせの終了タイミングで自論の演説を始めちゃったり、二日酔いでマックス機嫌が悪そうな上司に決裁依頼を持っていって玉砕したり、本当に要領が悪い方でした。。
第6層 プレゼンテーション層
伝達する情報を分かりやすく整形する機能です。
- 構成 :情報を分かりやすく配置することができる。
- 概念化:複雑な事柄を、分かりやすく概念化・言語化することができる。
- 文書 :わかりやすい構成の資料が作成できる。(文章、図示)
- プレゼン:伝えたい内容を、口頭や資料を使って明快に説明できる。
まあ、世の中の、資料作成やプレゼン本などに載っているスキルですね。ここも非常に大事です。どんなに心を込めた贈り物でも、包装紙が古新聞だったりすると、開けてもらえない可能性があります。逆にタカシマヤの包装紙だったら、いちおうは開けてはもらえると思います。中身がゴミみたいなものだったとしてもw
第7層 アプリケーション層
コミュニケーションの目的となる、内容そのものです。これまで第1層〜第6層まで、通信エラーを起こさないように気遣いしてきたのも、すべては第7層のメッセージを届けるためです。
どんなに下位層のコミュニケーションが円滑に行えてきたとしても、伝えたい内容が空っぽでは救いがない。「あ、中身がない人なんだな」という印象を相手に与えて終わりです。居ますよね。見た目もシュッとしていて、話のやり取りもスムーズなのに、なんか話している中身が薄い人。
やはり社会人たるもの、専門知識・経験に裏打ちされた知見・独自の視点のインサイトなど光るものが感じられないと、ついつい掛かってもきてない電話に出るふりして
「すみませんバタバタしてるんで、また今度」と
こちらから勝手に、宴もたけなわにして一本で締めたくなってしまいます。
コミュニケーション能力とは相手との間に橋を掛けることスキルのこと
これまで、通信の7階層モデルを参考にしながら、コミュニケーション能力をブレイクダウンして解説してきました。
【内容のおさらい】
レイヤー | 機能 | 内容 |
---|---|---|
物理層 | 物理的な接点 | 外見、服装、表情、声など |
データリンク層 | 狭義のコミュニケーションスキル | 語彙、文法、順番待ち、会話をつなぐ |
ネットワーク層 | 通信経路選択 | 適切な媒体の選択、影響範囲、リーチ |
トランスポート層 | 通信品質向上 | 到達確認、再送要求 |
セッション層 | 通信の適時性 | タイミング、連続性、フォローアップ |
プレゼン−ション層 | 情報の整形 | 構成、概念化、文書、プレゼンテーション |
アプリケーション層 | 情報の内容 | 専門知識、経験、知見、インサイト |
普段は「コミュニケーション能力」と一言で片付けてますけど、こうしてブレイクダウンしてみると、コミュニケーション能力とは、多数の小さなテクニックを複雑かつ有機的に組み合わせて使っている、高度なスキルセットなんだということが理解できます。
私は、コミュニケーションというのは「自分と相手の間に橋を掛けること」というイメージを持っております。相手に届けたい荷物(メッセージ)があるんだけど、自分と相手の間には川がある。だから荷物を届けるために橋を掛けます。
荷物が砂利みたいなもんだったら、ピカピカの舗装の橋を掛けてもしょうがないです。
でも、贈り物がガラス細工のように繊細だったらどうでしょう。せっかくの素晴らしい贈り物が、橋の舗装がガタガタなせいで、相手に届いた時に砕けて壊れてしまっていたら悲しい。
上位のコミュニケーション能力は外国行っても通じます
前にもお話したことありますが、自分はアメリカに住んで、現地のプロジェクトに参画していた経験があります。
その期間、いろいろとコミュニケーションについて考えていたのですが、日本語で培った知識・経験であっても、ほとんどそのままアメリカで通用するなと感じました。
もちろん、英語に焼き直す必要があります。外国語は第2層データリンク層の機能です。でも、それ以外の階層の機能、論理構成を分かりやすくするとか、適時にフォローするとか、気の利いたコミュニケーションの要諦は、そのまま外国人にも通じた気がします。
彼らから見れば、自分はカタコトの外国人だったかもしれませんが、それでも
「You、話の組み立てが分かりやすいね」「観点が独自で面白いな」という評価をもらって若干の自信を持つことができました。
最終的には内容で勝負
コミュニケーションも最終的には内容が命であって、自分の大事なメッセージを壊さずに相手に伝えられれば目的は達成となります。英語学習などでもそうですけど、英語だけ流暢だったとしても、内容が薄かったら相手は関心を持ってくれません。
そんな状況なら、むしろ英語の勉強時間を削って、専門知識・経験・独自の視点・インサイトの獲得に時間を割くべきです。
コミュニケーションスキルを向上させたい! そう思っているあなた。
その前に一度、胸に手を当ててて考えてみてください。
あなたの伝えたい内容は、相手が受け取ったら嬉しいと感じるでしょうか?
もし「イケる!」と思うなら、先程の表を再確認してみて、通信エラーを起こさないようにしましょう。
もし「自信ない…。」と思うなら、まずあなたがやるべき事はコミュニケーションスキルの向上の前に、専門知識・経験・独自の視点を獲得することです。
今回のコミュニケーション能力に関する記事は以上です!長文にお付き合い頂きありがとうございました。
今後も頃合いを見ながら、仕事ハック系の記事を書いていく予定です。
乞うご期待!